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鹿児島大学水産学部付属水産実験所

鹿児島大学理学部の先生U君、卒論生F川さんのお手伝い?にかこつけて、かごしま水族館のN田さんがコーディネイトして下さった事もあって、久しぶりに、鹿児島本土海岸の北端部にある、鹿児島大学水産学部付属水産実験所に行ってきました。
今は「長島ステーション」というおしゃれ?な名称になっていますが、僕にとっては「鹿児島大学水産学部付属水産実験所」の方が体に沁み込んで、思い入れもあり、しっくりきますね。
なにせ、大学4年生の1年、院生の4年の約半分は、ここに同じ魚類の行動生態学を志す仲間たちと寝泊まりしながら、潜りに潜りに、潜り倒して、魚のお尻を追いかけていたわけですから・・。

もう前日から、気分は絶頂!楽しみで楽しみで、遠足前の小学生のように、夜もなかなか眠れませんでしたね。
しかーし、ちょっと舞い上がり過ぎたのか、やらかしてしまいましたね・・。
車で2時間半ほど走ったコンビニで、たくさんの忘れ物に気が付きました。

カメラ・・・。過去2万回近いダイビングの中で、カメラを持って行こうと思って準備して、海に持って行くのを忘れるなんて、初めてですよ。ガーン!

シェルドライのインナー・・・。シェルドライなんて、そもそもそれ自体に保温性なんてありませんから。専用のインナーが無いという事は、普段着に、水の入らないウインドブレーカーだけ上に着て潜るようなものですよ。それも、向かうは、鹿児島最寒の海、鹿大実験所前ですから、水温なんてせいぜい13℃ですよ。ガーーン!

フード・・・。せっかく新調したフードも、カメラのカゴに入れて置いてきてしまいましたねー。でも、学生さんがフードを持っていないんじゃないかと、各サイズのフードをたっくさん持ってきています(こういうのは忘れない)。僕がかぶれそうなフードは・・ありました!これはなんとかセーフです。

・・・。重度のⅡ型減圧症には色々な後遺症が出ます。僕の場合は、下半身の激痛。火鉢に足を突っ込んだような激痛が24時間途切れなく続きます。ですから、鹿大病院麻酔科から処方された強力な痛み止めの薬を、食後に大量に飲まなければなりません。それを飲まなければ、それこそ地獄の苦しみが待っています・・。ガーーーン!
・・これはやばいです。さすがに、同行した妻の顔色が変っています。今すぐ取りに帰ると言いますが、ここは家から2時間半も離れています。今から往復5時間かかったら、夕方になってしまいます。ここは、13℃の冷たい水と、インナーなしのシェルドライが心地よく冷やしてくれることを期待しましょう。

いやはや、困ったもんだ。いや、ほんまにえらいこっちゃ!

実験所に付くと、技官さんのK堂さんと、O上さんが温かく迎えてくださいました。
僕の事故のこと、後遺症が酷い事を人づてに聞かれていたようで、とても心配してくださっていたようです。本当に喜んでくださいました。
学生時代には、鬼のように怖かった、やくざ映画の主人公のような趣だったK堂さんも、すっかり白髪となり、優しい満面の笑みで僕のダイビング復帰を喜んでくださいました。
若い方の技官さんO上さんは、僕が院生の時に新任で、実験所に来られた技官さんです。あの頃は、クルマやバイクをいかにして速く走らせるかという話しで盛り上がったものですが、今は、子供の教育費がお互いの悩みとして、共通の話題となりました・・。

さて、いよいよ、待ちに待った、実験所前の海です。
宿泊施設の布団から出て40歩歩けば、浮き桟橋。そこからエントリーすると、鹿児島ではとても貴重な「温帯の海」が広がっているのです。
僕はなんて、恵まれた環境でダイビング・・いや、研究をしてきたのでしょう。
若き日には分からなかった、今になってわかる素晴らしい環境で勉強させてもらっていたんだなという気持ちがこみ上げてきます。

浮き桟橋に渡る橋のたもとに車を停めてダイビングの準備です。
妻の着替えの服等、着れるものはこの際なんでもむりやり着ます。
そんな事をするうちに、いつの間にか、水族館のN田さんが、僕と妻の機材を、全部浮き桟橋に運んでくださいました。
まだまだ杖をつかないといけないし、力も無くて重い物はまだ運べません。本当にありがたい事です。

機材を身に着け、最初に僕がエントリー。
妻が不安げに「大丈夫?ほんとに大丈夫?」と心配して聞きます。
「んー?うん、冷たくて気持ちいいよ。全然大丈夫。」
・・やせ我慢に決まっています。「水中用ウインドブレーカー」は全く冷たさから僕を守ってくれませんね。ジンジンと冷たさが忍び込んできます。
「は、早く潜ろう!」
ウエイトを山ほど着けて、ドライの中に空気をたっくさん入れて、少しでも水と身体を遠ざける作戦です。

BCの空気を抜き、水中に入った途端、全てを忘れます。
アナアオサの群落、その間の砂泥底には、ドロクダムシやホソツツムシが無数にいます。ピンピンと逃げていくのはヒメハゼの幼魚たちです。

少し沖に出ると、淡い冬の日差しにアナアオサの美しいグリーンが映えて、目に沁みます。カ、カメラが欲しい・・・涙
美しい純白のサクラミノウミウシがゆらゆらと鰓をなびかせてアオサの上を歩いています。
寒そうに頭隠して尻隠さずは、クロイシモチ。錦江湾や坊津などでみるサイズの1.5倍程あります。
12cm程もある巨大なコウライトラギスが僕を見上げます。思わず、同じ釜の飯を食べながら彼らを研究していた同級生B場君や先輩K川さんを思い出して笑みがこぼれます。
ここの魚はどうしてこうも、他の場所の魚より大きいのでしょう。
それは、ここの底生の魚たちは同じ種類でも、他の場所のものより寿命が長い事が分かっています。
大型の肉食魚が少なく、捕食圧が低いので、のびのび大きく育つのです。

まずは水族館のN田さんと、見つけたらビール一杯を賭けている、光るウミウシ、ハナデンシャを探します。
ハナデンシャが出現する場所は、いつも決まっていました。驚くほど昔と変わっていない海底を舐めるように見て、ハナデンシャを探します。
しかし、残念ながらハナデンシャは見つかりませんでした。
そうだ。僕はアルコール摂取絶対禁止なんだった。強い麻薬の痛み止めを飲んでいますからね。副作用が出ては困ります。ハナデンシャを見つけられなかった言い訳を思い浮かべて、自分を納得させます。

ハナデンシャを探す目は、いつの間にか魚たちの方へ。
院生の頃追いかけていた、ハナビヌメリの一群を見つけました。雄1匹に雌4匹の群れです。互いに近付いては、第一背鰭を広げてくるりと回す挨拶行動をしています。
夏の繁殖期以外のこんな時期にも、群れで行動しているんですね・・。新たな知見です。

中層を泳いでいたかと思えば、岩陰の隙間に定期的に入るチャガラの老成雄がいます。そっと近づいて、隙間を覗き込むと、隙間の天井を埋め尽くすようにぶら下がった、ガラスの雫のような卵たち。中ではもう孵化寸前まで育った仔魚の目が輝いています。それに寄り添い、保護するのは、雄同士の戦いに勝利して子孫を得た、傷だらけのチャガラの雄。7cmほどほどの小さな美しいハゼですが、迫力ある面構えです。

ブリの養殖生け簀が壊れ、沈んだパイプの穴では、まるでおにぎりのような大粒の卵の卵塊を、とぐろを巻いて守るベニツケギンポの雄がいます。

大柄な雌を、海藻の影に隠れながら、ストーカーのように付け回す、交尾をするための生殖器を丸出しにしたアサヒアナハゼの雄。
この辺りの漁師さんは、この雄の事を、そのまんま「チ〇ポ出し」と呼んでいます。
しかし、このチン・・アサヒアナハゼの瞳がまた美しいのです。覗き込んで見とれてしまいました。

お腹が卵ではち切れそうになった雌のまわりのを求愛してまわるメバルの雄たち。この時、彼らは、雌の顔面近くに尿を振り撒いている事が知られています。
人間がこんな事をしたら、大変ですよね・・。

砂地で時々目にするトカゲゴチには何故か皆、黒いヒルのような寄生虫が付いています。これには寄生虫を研究するU野君は大はしゃぎです。
それに、昔のような巨大な個体がいません。
皆元気が無さげです・・。そういえば、彼らを研究していたY田も膝を壊して弱っているしなあ・・。

真っ黒な婚姻色のコケギンポが、僕に向かって口を開けて威嚇してきます。おそらく彼らの入っている穴の奥に卵が隠されているのでしょう。
自分の体の何千倍もある生物(僕)に卵を守るために威嚇してくるなんて、なんて勇気があるのでしょうか。

妻が海底を指差します。
そこには、美しいオレンジがかった褐色のタカクラタツが。顔を近付けると、擬態の効果を上げるために身体は全く動かしませんが、目はキョロキョロ動いて、不安なのが手に取るように分かります。目は心の鏡、ですね。

魚以外にも、イタヤガイを開いて食べようと渾身の力を込めるマダコ。
近付くと、逃げたいけど、イタヤガイも食べたいし・・揺れ動く心が、かわいそうなくらい顔色の変化となって、黒っぽくなったり蒼白になったりころころ変わり、見え見えです。

美しい色彩を、まるでパトカーの警告灯のように変化させるヒメイカが・・・・。

見上げると、練習船あづまの下に、海水の浄化実験を行っていたバイオフロートが揺れています。
バイオフロートは、かごの中に、アオサや牡蠣を入れて、養殖漁業で富栄養化された海水を浄化できないかという実験に使われたものです。
その実験も終わったのでしょうか。かごの下には、ピンク色の美しいトゲトサカが揺れています。

ちょうどそこに、ウミウシを研究テーマに選んだ学生F川さんが通りかかりました。
ちょっとわがままをを言って、彼女に声をかけて、カメラを貸してもらいます。
しかし、最新のコンパクトデジカメなんて使ったこともありません。使い方がよく分かりませんから、彼女のウミウシを撮影していた設定のまま、数枚シャッターを切らせてもらいました。
うーん、全然上手く撮れません・・。自分のカメラがあったらなあ・・。
でも、画像が無いのも寂しいですから、ちょっと弄って・・・

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全てが懐かしく、美しい。そんな海でした。

僕が、生き物たちの暮らしの秘密を学んだ海なのです。

とっても寒かったですが、心はポッカリホッコリ温かいダイビングでした。

皆さん、本当にありがとうございました。


by geikai_diver | 2018-01-22 21:02 | 長島

頭隠して・・・

先日の長島での出来事・・

黒之瀬戸海峡に面した、とある入り江の奥、砂泥の斜面を降りてゆくと、ザラカイメンの群体がありました。
周囲には、クロイシモチとオオモンハタの幼魚たちが数匹ずつ、急に現れたこちらの様子をうかがっています。

1匹のクロイシモチの若魚に、そっと近づくと、ザラカイメンのてっぺんの穴の方へ、こちらの様子を窺いながら、そろそろ移動していきます。
地味だけど、体色を薄くしている時は、よく見るとなかなか綺麗なテンジクダイです・・。
驚かせないように、ゆっくり接近します。


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ちょっと近づきすぎたのか、彼は、こちらとカイメンの穴を代わる代わる見て、逃げようかどうしようか、迷っているようです。

・・このカイメンの穴に入るのかなあ・・?
・・でも、ちょっと君には穴が小さすぎるのではないかい??

すると、するすると穴の中に・・・。

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あれ、そこまでしか入らないの?
尻尾を出した状態で止まっています・・。

ちょっと意地悪して、尾鰭に触ってみました。
微動だにしません・・。これ以上奥には入れないようです・・・。

きっと、ちょっと前までは、この穴に入れたんですよ。彼は。
成長しちゃったのに、気付かなかったんですね・・。

早く、ちょうどいい隠れ場所を見つけたほうがいいよ~。
by geikai_diver | 2010-02-13 00:08 | 長島

黒之瀬戸海峡

今朝、玄関の戸を開けると、いきなり硫黄の匂いが鼻をつきました。
外に出ると、やはり、火山灰が降っています・・。
妻の白い車には黒く、僕の紺の車には白く、うっすらと灰が積もっています。
庭の木々も、干していた器材も、何もかも灰まみれです・・。
桜島が元気な時に、東よりの風が吹くと、こうなるんです・・。

というわけで、でもないのですが、今日は、鹿児島の東シナ海側の最北部、長島の海に行ってきました。
車で走ること約2時間。
お騒がせ市長ですっかり有名に(?)なってしまった阿久根市の黒之浜に到着です。
黒之浜は、阿久根市と長島に挟まれた黒之瀬戸海峡に面しています。

この黒之瀬戸海峡、「日本三大急潮」の一つに数えられる、恐るべき潮流の海峡です。
狭い海峡を抜けて八代海に出入りする海水は、潮の干満でまさに怒涛の流れを作るのです。
大潮の時などは、潮波と渦潮で、とてもこんなところには潜れません・・と、どん引きしてしまう場所です・・。

けれど、ここは本当に豊かな海。
栄養豊かな八代海の水と、南からの恵を運ぶ外洋水がぶつかって、海の中には命の輝きに満ちています。

こんな無茶な海に潜るのには、この海を知り尽くした黒之浜の漁師、梶尾勇市さんがいればこそです。
10年程前、知り合ったばかりの頃は、「よかど!流れとらんが!」と声をかけられても、どう見ても明らかに流れている海に飛び込むのに躊躇していましたが、流されながら必死で海底を目指していると、中層から流れがぴたっと止まっていた・・というのを何度も経験して、今は、梶尾さんが「よかど!」といえば、どんな海況でも飛び込んでしまえるくらい信頼しています。・・子供の頃には、この黒之瀬戸海峡で毎日泳いでいたというから恐れ入ります・・。梶尾さんの逸話を語り始めると、きりがないのですよ・・。

今日は、もう僕も四十ですから・・、無茶はせず、流れの本流から少し引っ込んだ入り江でのダイビングです。
入り江の奥は、砂泥底、海峡に近づくにつれ、砂の割合が高くなります。
飛び込むと、水は緑色。錦江湾に近くて和みますね。塩分濃度の違う水が絡み合って、モヤモヤしているのもなんだかワクワクです。
砂泥の斜面を降りていくと、所々にマダラヤナギウミエラの姿が見えてきます。
大きいものでは高さ50cmほど。なかなか綺麗です。

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より深いところへ移動していくと、その数はどんどん増えて、群生地となっていきます。
・・残念ながら今日は、海峡から差し込んでくる流れが弱く、伸びているのは全体の1/3ほどの数です。
多くは縮んで砂に潜っています。
複雑な潮と同じで、・・なかなか彼らの伸びるタイミングは読めないのです・・。
以前、海峡の真っ只中にある海底の砂丘に、潮止まり近くの緩い潮で入ったのですが、その時はもう、泳げど泳げと、一面のマダラヤナギウミエラの密集地で、不思議の国に迷い込んだような気分になったものです・・。

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所々には、こんなふうに海底から抜けて、だらんと脱力して、海底をずるずる流されていくものもいます。(彼らの移動方法なのでしょうか?)

つくづく不思議な生きものです・・・。

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by geikai_diver | 2010-02-07 23:50 | 長島